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東京高等裁判所 平成11年(ネ)907号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 株式会社 ケイネット

右代表者代表清算人 大森康彦

右訴訟代理人弁護士 日野修男

同 樋口収

被控訴人(附帯控訴人) A野太郎

右訴訟代理人弁護士 藤原宏高

同 井奈波朋子

同 堀籠佳典

主文

一  本件控訴に基づき、原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人(附帯控訴人)の右部分に係る請求を棄却する。

三  本件附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて全部被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴

1  控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(主位的)

被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)の右部分に係る請求を棄却する。

(予備的)

被控訴人の右部分に係る訴えを却下する。

2  被控訴人

(主位的)

本件控訴を却下する。

(予備的)

本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴

1  被控訴人

(一) 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 控訴人は、被控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成八年八月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人

本件附帯控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二 事案の概要」の記載と同一であるから、これを引用する。

一  原判決四頁八行目の「パソコン通信事業の運営」の次に「(平成四年四月二九日事業開始、平成九年六月現在の会員数約四万人)」を加える。

二  原判決六頁九行目の「コペルニクス」を「被告ネット」に改める。

三  原判決二二頁一行目の「削除措置」を「抹消措置」に改める。

四  原判決三二頁二行目の「準委任契約」を「主宰者契約」に改める。

五  原判決三四頁六行目から七行目にかけての「第一八条一項四号(第二規約第一〇二条二項一〇号)」を「第一規約第八条一項四号」に改める。

六  原判決三七頁一行目及び三行目の各「削除」をいずれも「隠蔽」に改める。

七  原判決三九頁二行目及び五行目の各「サロン・」をいずれも削る。

八  原判決四一頁七行目の「本所面」を「本書面」に改める。

九  原判決四四頁三行目の「一五日に」を「一五日をもって」に改める。

一〇  原判決四四頁末行、四五頁五行目から六行目にかけて、七行目及び九行目の各「一項」をいずれも「二項」に改める。

第三当審において追加した当事者の主張

一  控訴人(予備的に訴えの却下を求める理由)

控訴人は、平成一〇年一二月二八日をもってコペルニクスを含むパソコン通信事業から撤退し、その事業を終了した。したがって、仮に被控訴人が本件契約の解除によりコペルニクスの会員としての地位を喪失していないとしても、もはやその地位の確認を求める訴えは、確認の利益を欠き、不適法である。

なお、右却下の申立ては、被控訴人の右確認を求める請求が棄却されない場合に備えて、予備的にするものである。

二  被控訴人(控訴人の右主張に対する反論及び本件控訴却下の申立ての理由)

1  控訴人の業務撤退という経営上の問題と控訴人と会員との契約関係とは別個に考察されるべき問題であり、控訴人の業務撤退により会員との契約関係が一方的に終了するものではないから、確認の利益を欠くとの控訴人の主張は失当である。

2  訴訟要件は、本案判決をするための要件であるから、主位的に本案の棄却判決を求め、予備的に訴え却下の判決を求めるというのは矛盾であり、かつ、相手方(被控訴人)の防御を困難ならしめるものであるから、かかる申立てを内容とする本件控訴は不適法である。

第四当裁判所の判断

一  控訴人の訴え却下の申立て及び被控訴人の控訴却下の申立てについて

1  控訴人は、控訴人が本件契約の目的であるコペルニクスを含むパソコン通信事業から撤退し、その事業を終了したから、被控訴人がコペルニクスの会員である地位を有することの確認を求める訴えは、確認の利益を欠き、不適法である旨を主張して、当該訴えの却下の申立てをする。

控訴人は、右申立てを、右確認の請求が棄却されない場合に備えて予備的にするものとするが、確認の利益の存することは訴訟要件であって、当事者の主張を待つことなく調査、判断する必要がある。

そこでまずこの点について判断するのに、控訴人が本件契約の目的であるコペルニクスを含むパソコン通信事業を行わないことにしたとしても、そのことに伴って本件契約の終了という実体上の効果を生ずるかどうかという実体上の問題が生ずるだけであって、本件契約の相手方である被控訴人において、本件契約がなお効力を有するとして、本件契約に基づくコペルニクスの会員である地位にあることの確認を求めることが、事実上の実効性の問題はともかく、法律上利益を欠くに至るものとすべき理由はないというべきである。

したがって、控訴人の右申立ては失当である。

2  次に、被控訴人は、控訴人が右確認の請求について、主位的に請求棄却を求め、予備的に訴え却下を求めていることを理由に、本件控訴自体が不適法であるとして、控訴の却下を求める。

しかしながら、右判示のとおり、確認の利益の存否の判断は、当事者の申立てのいかんにかかわらず、本案に関する判断に先立ち判断すべき事項であるから、控訴人が右申立てを予備的にしていることは意味のないものであって、当裁判所としては、主位的に訴え却下を求め、予備的に請求棄却を求めている場合と同様に取り扱えば足りるものというべきである。したがって、控訴人が訴え却下の申立てを予備的にしているからといって、本件控訴が不適法となるものとすることはできず、被控訴人のこの点の申立ても採用の限りでない。

3  以上のとおりであるから、以下、本案の請求の当否につき判断する。

二  事実経過

1  パソコン通信の利用契約及び会員規約

前記第二の一の基本的事実に、《証拠省略》を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一) 控訴人とのパソコン通信サービスの利用契約は、所定の入会申込書に所定の必要事項を記載してこれを控訴人に送付してする方法と、モデム及び通信ソフトを有する場合にはパソコン画面に映し出される所定事項欄に必要事項を入力して行うオンラインサインアップの方法とがあるが、いずれの場合にも、控訴人が予め定めた被告ネット(ケイネット又はコペルニクス。以下「本件ネット」ともいう。)の一般会員規約が入会申込書に記載され、又はパソコン画面に表示され、利用を希望する者はその一般会員規約を包括的に承認したものとして、利用契約が締結される。

(二) 本件ネットの一般会員規約のうち、本件の判断に必要な条項を摘記すると、以下のとおりである。

なお、新システム移行に伴い、第二規約から第三規約(平成七年八月一日施行)に改訂されたが、その内容は、左記の条項に関する限り、「ケイネット」の名称が「コペルニクス」に改められたほかは、第二規約の定めるところと(条番号を含め)同様である。

第一規約(平成四年一月一日施行)

(1) サービスの内容(四条)

会員に提供するサービス内容はケイネット一般メニューとして定めます。(一項)

(2) システム運用の変更及び停止(五条)

サービスの内容変更は、弊社が必要と判断した場合、会員に通知することなく行なえるものとします。(二項)

前記の理由により、弊社の提供するサービスに遅延または中断が発生しても、弊社は一切の責任を負わないものとします。(三項)

(3) 禁止事項(八条)

ケイネットにおいては、会員相互の利益の為、次の行為を禁止します。(一項)

① 誹謗、中傷、わいせつ等公序良俗に反する情報を流すこと。(一号)

② サービスの運営を故意に破壊または妨害すること。(四号)

③ その他、法律に反すると判断される行為をすること。(六号)

前項に抵触すると判断された時、弊社は、会員に通知することなく、掲載された情報を削除することができます。(二項)

(4) 会員資格の停止又は取消(九条)

会員が下記の各号に該当する場合、弊社は当該会員の会員資格を、停止または取り消すことができるものとします。(一項)

① サービスの運営を故意に破壊または妨害した場合。(三号)

② その他弊社が会員として不適当と判断した場合。(七号)

(5) 規約の変更(一二条)

弊社は、会員の承諾なく本契約の改訂ができるものとします。この場合事前にケイネットを通じて通知するものとします。

第二規約(平成七年四月一日施行)

(1) サービスの種類(五条)

第一規約の(1)と同旨。

(2) 利用停止(一〇条)

弊社は、会員が次の各号のいずれかに該当する場合には、ケイネットの利用を停止し、又は会員資格を取り消すことがあります。(一項)

① ……第一五条(会員の義務)に違反したとき。(二号)

② その他、この規約に違反したとき。(五号)

(3) 会員の義務(一五条)

会員は、ケイネットを利用するにあたり、次の行為をおこなってはならないものとします。(二項)

① 他の会員あるいは第三者の名誉を毀損し、または侮辱し誹謗中傷するような行為(三号)

② その他、ケイネットのシステムに損害を与え、またはケイネットの運営を妨げるような行為(一〇号)

③ その他、法令に違反するもの、または違反するおそれのある行為(一二号)

(三) 被控訴人は、平成四年五月ころ、ケイネット入会申込書を控訴人に送付し、第一規約を承認して本件契約を締結し、本件ネットの会員としての地位を取得した。

2  リニューアルの経緯と被控訴人の対応等

《証拠省略》によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 控訴人は、赤字経営からの脱却を図るため、平成六年六月に、ソフトバンク社長等を歴任した現代表者を迎え、経営全般の見直しを始めた。パソコン通信事業の分野においても、同年秋ころには、メニュー(「けいねっとサロン」、「オンライントーク」等を含む。)の見直し、ジャンプコードの統一等、何らかの見直しが図られることが、サロンマネージャー等の間で予想されていたが、その具体的な内容については、後記の平成七年二月一一日に行われたリニューアルの説明会まで一切明らかにされなかった。

(二) 控訴人は、リニューアル前のサロンの運営において、ケイネットの一般会員でパソコン通信に精通しているなどの適任者との間でサロン主宰者契約を締結し、サロン主宰者(サロンマネージャー)にサロンの運営の相当部分をゆだねてきた。

控訴人は、平成六年五月三一日、被控訴人とサロン主宰者契約(乙六はその契約書。以下「本件主宰者契約」という。)を締結した。右契約により、控訴人は、同年六月一日から平成七年五月三一日までの間、K―MUSICサロンの運営・管理を被控訴人に委嘱し、被控訴人に対し、ケイネット一般サービスメニューを無償で利用できる特定のID及びパスワードの貸与、必要な支援及び資料の提供並びに運営補助費として月額二万円及び月間利用時間に応じた金員(一〇時間を超える各一〇時間毎に月額五〇〇円)の支払等を約し、また、被控訴人にサロン運営上必要な協力者(ボードマスター)の選任権を付与し、他方、被控訴人は、会員規約の遵守等を義務づけられた。

このように、サロン運営につきサロンマネージャーに大幅な裁量権を与えた結果、平成七年当時約三〇あった各サロンは、その名称、運営方法及び内容に至るまで、各サロンマネージャーの運営に対する考え方や運営方法に大きく左右され、その結果、個性的である反面統一性に欠ける、サロンにより会員からのアクセス量に相当の開きがあるなどの批判も生じていた。

(三) 控訴人は、右の状況を踏まえた検討の結果、サロンの編成や運営方法の大幅な改革を中心とするリニューアルを実施することを決定し、平成七年二月一日、各サロンマネージャーに対し、サロンの運営方針及びメニュー構成についての改善方針がまとまったとして、リニューアルの説明会を同月一一日に開催する旨の通知をした上、同一一日、横浜市技能文化会館において、サロンマネージャー及びボードマスターに対する説明会を開催した。右説明会には、約二〇名のサロンマネージャーが出席し、ケイネット事務局の職員である平岡や面川らがリニューアルの内容を説明した。

当日説明されたリニューアルの要点は、サロンの名称を分かりやすくする、これまでのサロンを全て終了し全く新しい統一性のあるサロンを構築する、これまでにケイネット上に書き込まれた会員からの情報及びフリーソフト等のデータはリニューアル後のサロンに引き継がない、全サロンマネージャー及びボードマスターを平成七年三月末日をもって解任し、リニューアル後のサロンマネージャーの構成を一新する、現行のメニューは同年三月末日で終了し、リニューアル後の新メニューは同年四月一三日から実施する、などであった。

控訴人は、右説明に当たり、リニューアルは既定方針であり、当説明会はその内容を説明することが目的で、その是非につきサロンマネージャーの意見を聞く場ではないとの立場を採り、また、リニューアルに関する個人的見解をネット上に発表することを禁止するとしたことなどから、これに反発した参加者との間に険悪な雰囲気を生じた。

控訴人は、右説明会終了後の右一一日午後八時ころ、ケイネット事務局名をもって一般会員に対し、「メニュー改編のお知らせ」と題してリニューアルの概要を発表した。

(四) 被控訴人は、リニューアルを批判する立場に立ちつつも、リニューアル後も新サロンのサロンマネージャーへの再任を希望し、その申込みの手続をしていたところ、同年二月二〇日、ケイネット事務局の平岡から再任を見送る旨の連絡を受け、さらに、同月二八日付け書面により本件主宰者契約一〇条二項に基づき同契約を同年三月三一日をもって解約する旨の通知を受けた。被控訴人は、これに対し、再任しない理由の説明を再三求めたところ、同年三月一〇日付けで、平岡から、ケイネットがサロン運営者に望むことは、客観的で冷静な判断ができること、問題が発生した場合にケイネットと相談の上で一般会員に連絡できること及び自分の意見を人に強要しないことであるところ、被控訴人の基本的姿勢がケイネットの望むこれらの方向と異なることがその理由である旨の回答を受けた。

(五) 被控訴人は、同年三月九日、新サロンのメニューの発表を受けて、リニューアルが従来のサロンの構成を大幅に変更するものであるにもかかわらず準備時間が乏しく、リニューアルに関する説明が不十分で情報が乏しいこと、従来のサロン運営を失敗と評価しその原因をサロンマネージャーの責任としているが、その裏付けとなる具体的根拠の説明がないこと、これまでサロンマネージャー等の努力により蓄積されてきたデータを新サロンに引き継がないことなど、多くの点に問題があるとし、ケイネット側の不手際を非難する意見をケイネット上に発表した。

(六) 被控訴人は、各サロンの書込情報を抹消する場合には当該ファイルをダウンロードして保存すべきこととされていたのにかかわらず、自己がサロンマネージャーを務めてきたK―MUSICに蓄積されてきたデータが新サロンに引き継がれないことから、平成七年三月末ころ、被控訴人に連絡することなく、自己の判断で、かつ、保存措置を採ることなく、そのデータの全てを抹消した。

控訴人は、リニューアル後は、既存の各サロンのデータを新サロンに引き継がないこととしていたものの、将来の必要に備えて磁気テープによりこれを保存することを予定しており、同月二九日、サロンマネージャー専用のボードに「担当サロンの記事の削除はご遠慮願います。」と題する文書を掲載していた(もっとも、被控訴人が右抹消行為の前にこれを閲覧していたかどうかは明らかでない。)。

(七) 控訴人は、リニューアルが実施された平成七年四月一三日から同年五月三一日までの間、電子掲示板「みんなのフリートーク」のローカル・ルール(第二規約八条一項に基づく下位規定)として、ケイネットの運営に関する事項をこれに書き込むことを禁止し、右事項についての意見は電子メールで事務局宛に送るべき旨を定め、その旨会員に告知した。

ところが、被控訴人は、同年四月末ころから同年五月二七日までの間、「みんなのフリートーク」に次のような書込みを連続的に行った。

「いるのか、いないのかわからない管理人なんていらねぇ~よ~。」(#0065。同年四月二七日)、「いいかげん、ここの管理人出てきたらどうだ。馬鹿にするのもええかげんにせいよ。」(#0090。同年五月二日)、「………FSWの事に関して、これはK―NETの運営に関ることでありますが、一向に警告・注意のたぐいはありません。………管理しない、管理できないならば、管理人なんかさっさとやめたらどうですか。管理人制度自体も考えたらどうですか?」(#0126。同月七日)、「これまでこのFREEにおいてFSWの事について様々な人が意見を交わしているが、これらはK―NETの運営に関ることだと思います。………管理できない、管理しないのであれば、管理人制度自体考えた方がいい。」(#0177。同月一二日)、「横浜APが電話が繋がりモデムのハンドシェークをした時点でストップする。………なにせ毎回電話代は取られているんだからなぁ。……」(#0304。同月二五日)、「せっかく管理人のお声が聞けたかと思ったらお辞めになるのですね。登場しないので良いとか悪いとかのイメージ以前の問題でしたが。」(#0305。同日)等である。

これに対し控訴人は、右掲の書込みを含む被控訴人の「みんなのフリートーク」への一連の書込み(#0126、0177、0304、0305、0314、0321、0323、0324、0325、0326、0329、0330)につき隠蔽措置を採るとともに、同月二五日、被控訴人が再三の警告にもかかわらず違反行為を繰り返し、右#0304、#0305の書込みは第二規約一五条二項一〇号の行為に該当するとして、同規約一〇条一項二号に基づき、同月二七日以降被控訴人のケイネットの利用を停止する措置(以下「ID停止措置」という。)を採った。

(八) 被控訴人は、平成七年六月二一日付けで、右隠蔽措置等を不当として、控訴人に対し、損害賠償三〇〇万円の支払、「みんなのフリートーク」への謝罪文の掲載等を要求する書面を送付した。

これに対し、控訴人は、リニューアル前まではケイネットの発展に協力してきた被控訴人と長期間争うのは得策ではないとの判断の下に、松本において収拾策につき被控訴人との交渉に当たり、その結果、同年七月一八日、控訴人と被控訴人との間で覚書を取り交わした。覚書において、賠償金の支払や謝罪文の掲載等に関する点は今後の話合いにゆだねることとした上、隠蔽措置及びID停止措置については、被控訴人において前記の書込みに表現上不適切な部分があったことを、控訴人においてこれらの措置が必ずしも適切でなかったことを相互に認める、控訴人は同月一九日「みんなのフリートーク」に右の趣旨の書込みを行い、その書込み後被控訴人のID停止措置を解除する、解除後被控訴人においても「みんなのフリートーク」に前記の趣旨の書込みをする、被控訴人は今後誹謗・中傷と誤解されるような書込みをしないよう注意し、本件ネットの健全な発展に協力する、などの合意がされた。

(九) 被控訴人は、ID停止措置が解除された平成七年七月一九日、従来のハンドルネーム「MONTY」を、高木寛が考案した【>-】を付加した「MONTY【>-】」に変更した。右【>-】は、ケイネットの運営姿勢に批判的立場を採っていることを示すアンチケイネットマークであり、被控訴人は「みんなのフリートーク」の平成七年九月五日の書込みにおいて、右の新ハンドルネームにつき、「事務局の常軌を逸した行動や対応に異論を唱えるもので、コペルニクスをよりよくしようとする手段のひとつ」であると説明している。

以後、被控訴人は、ID抹消措置を受ける前日の平成八年六月一四日まで、「みんなのフリートーク」を中心として、右ハンドルネームを使用して合計四〇〇回余の書込みをした。

(一〇) 被控訴人は、右の「みんなのフリートーク」を中心とするアンチケイネットマークを付したハンドルネームによる書込みにおいて、リニューアルや新システム移行に対する批判、控訴人の被控訴人に対する対応に関する批判等の被控訴人の本件ネットの運営に対する非難及び控訴人が選任した管理人(ハンドルネーム「あすなろ」)や本件ネット事務局の対応に対する非難を内容とする多数の書込みをした。

それらの書込みとして、別紙一覧表のとおりの書込みがある。

3  新システム移行の経緯と被控訴人の対応等

《証拠省略》によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 控訴人は、平成七年六月、インターネットやマルチメディアへの対応を理由に、ケイネットのパソコン通信用ホストコンピュータのシステムを変更する新システム移行を同年八月一日から実施することを発表した。

(二) これに対し、被控訴人を含む一七名の会員が、差出人代表を竹花英明とし、同年七月二三日付けで、「損害賠償等の請求と債務不履行への警告及び違法不当な処分に対する要求」と題してリニューアルに対する責任追及と新システム移行の中止等を要求する書面を控訴人に送付した。右書面は、リニューアルや会員に対するID停止措置に抗議し、新システム移行に反対する(その理由として、新システム移行の準備期間が短期間であるためパソコン初心者や身体に障害のあるいわゆる情報弱者が新たな操作に対応できないおそれがあること、新システムへの控訴人のサポートが不十分で会員間のコミニュケーションが貧相となること等を指摘している。)とともに、リニューアルによる精神的損害に対する慰謝料として各サロンマネージャーに対し一〇〇万円宛、ケイネット各会員に対し一〇万円宛の各支払、新システム移行の中止、事務局人事の刷新、運営委員会の設置等を要求するものである。

(三) 右書面を受けた控訴人は、右要求事項はいずれも受け入れることのできないものであったが、会員からの意見には誠実に対応すべきである旨の代表者の意向を受けて話合いの機会を持つこととし、平成七年八月一〇日を第一回として、控訴人側からは原及び日野の両取締役及び松本らが、会員側からは高木寛が中心となり、竹花英明、被控訴人らが随時出席して、平成七年一二月一八日まで合計七回の話合いが行われた。これらの話合いにおいては、リニューアルの問題点、ID停止措置の当否、新システム移行の障害を持つ会員への影響とその対応策の進行状況等について論議がされ、控訴人側が障害者用のソフトの必要性を認識しその開発を急ぐなど進展の見られた事項もあったものの、基本的論点についての議論は平行線をたどり、解決の糸口が見つからないまま次第に行き詰まっていった。

(四) 右のとおり話合いが膠着状態にあった平成七年一二月九日、被控訴人は、前記2(八)の覚書において先送りされた損害賠償等の問題の年内決着を求める電子メールを松本に送付した。同メールにおいて、被控訴人は、右覚書締結後の控訴人事務局の会員に対する対応姿勢に何ら改善された点が見られないとした上で、事務局職員である面川及び平岡を名指しの上「そんな連中は切り捨てるべきである」、「あんなバカな連中のふたりや三人分くらいならわたし一人で十分できることである」と記載し、「けっして私はあなた方を許すことはないであろうし、あなた方が行ってきた事実を機会あるごとに明らかにしていきたいと思う。いくらシンパを取り込んだところで能力の欠如した人間が取り込めるのはあすなろやみちこなどの得体の知れない非常識な人間しか取り込むことはできないだろう」、「ここでいう決着とは慰謝料を支払うか支払わないかだけである。支払う気がないのであれば、司法判断を仰ぐしかない(提訴の時の金額は当然倍増以上の金額を要求したいと思う。)」、「企業ぐるみの大ウソツキである。あなた方になんらかの鉄槌を下さぬ限りケイネットからいなくなる事はけっしてないであろう」などと記載した。

(五) 被控訴人は、インターネットに開設した自己のホームページ「Silly Walks」に前記(三)の話合いの状況を掲載していたところ、平成七年一二月一四日から平成八年一月二日までの間、記事に臨場感を出すべく、右話合いの際に被控訴人が密かに写した控訴人側出席者三名が着席した上半身の写真を、その目の部分を太線で黒く塗りつぶして、話合いの報告記事とともに右ホームページに掲載した。

(六) これに対し、控訴人の依頼を受けた千川弁護士は、同年一月三一日付けで被控訴人に対し通告書を送付し、右写真の掲載は肖像権の侵害に当たる違法行為であるとして、控訴人は今後の直接交渉を打ち切ること、書面到達後二週間以内に連絡がない場合には同書面をもって本件契約を解除する旨を通告した。被控訴人は、藤原弁護士に千川弁護士との交渉を依頼し、藤原弁護士と千川弁護士は、同年二月二一日面会し、協議したが、藤原弁護士が、リニューアル及び新システム移行に欠陥があったことを控訴人が認め、右欠陥を是正する措置を講ずることなどを内容とする被控訴人の提案に係る覚書を解決案として提示したため、協議は物別れに終わった。

(七) 被控訴人は、「みんなのフリートーク」に、平成八年三月一九日、千川弁護士に連絡を取ったが同弁護士が通告書で問題としていた肖像権の問題について言及しなかった、被控訴人が依頼した藤原弁護士が千川弁護士に面会を申し入れてもなかなか連絡が取れなかったなどと指摘し、同年四月六日、こちらも弁護士を立てたらケイネットの弁護士は逃げ回っていると指摘して、閲覧する者をして千川弁護士が話合いを回避しているかのような印象を与える書込みをした。

これに対し千川弁護士は、控訴人の代理人として、同年六月六日、藤原弁護士に対し、弁護士間の交渉過程を一方的に明らかにした点を非難するとともに、被控訴人の行為は本件ネットとの信頼関係を破壊する行為に当たるとして、会員その他の第三者を誹謗、中傷するような書込みや他の会員をして不快の念を抱かせる恐れのある書込みを二度としないことを誓約する旨の誓約書を被控訴人が差し入れない限り、同年八月一五日をもってID資格を抹消し、本件契約を解除する旨の通知をした。

被控訴人は、右誓約書の禁止行為の記載は不明瞭であって応じられないとして、誓約書を提出しなかったため、控訴人は、右六月一五日、本件契約の解除の効力が生じたとして、被控訴人のコペルニクスID資格を抹消する措置を採った。

三  本件契約の解除の効力

以上の認定事実に基づいて、控訴人がした右二3(七)の本件契約の解除の効力(解除事由の存否)について判断する。

1  以上の認定事実中の被控訴人の個々の行為が第一規約九条一項各号又は第二、第三規約一〇条一項各号、一五条二項各号の定める事由に該当するかどうかについて、控訴人が本件契約の解除事由として主張するところに沿って検討する。

(一) 前記二2(六)のデータ抹消行為について

被控訴人は、前示のとおり、リニューアルに伴いK―MUSICのサロンマネージャーを解任され、リニューアル後の新サロンマネージャーとして再任されないことが明らかになった平成七年三月末ころ、サロンマネージャーとしてはサロンの書込情報を抹消する場合には当該ファイルをダウンロードして保存すべきこととされていたのに、自己がサロンマネージャーを務めていたK―MUSICに蓄積されていたデータの全てを、被控訴人に無断で、かつ、保存措置を採ることなく抹消したものであるところ、その抹消をすることがやむをえないものと認めるべき事由を認めることもできない上、控訴人においてはそのデータを将来の必要に備えて保存することを予定していたのであるから、右抹消行為は、第一規約九条一項三号の「サービスの運営を故意に破壊または妨害」する行為に該当するものということができる。

(二) 前記2(七)のローカル・ルール違反行為について

前示のとおり、被控訴人は、リニューアル実施後の平成七年四月一三日から同年五月三一日までの間、電子掲示板「みんなのフリートーク」のローカル・ルールにより、ケイネットの運営に関する事項を「みんなのフリートーク」に書き込むことが禁止され、右事項についての意見は電子メールで事務局に送るべきこととされていたのに、同年四月末ころから同年五月二七日までの間繰り返し前記二2(七)のとおり「みんなのフリートーク」にその管理人の運営や管理人制度を非難する等の意見の書込みをしたところ、その書込行為は、「みんなのフリートーク」の運営上の定めをあえて無視したものであり、第二規約一五条二項一〇号の「ケイネットの運営を妨げるような行為」に該当するものということができる。

(三) 前記二3(二)及び(四)の要求行為について

前示のとおり、被控訴人は、新システム移行を目前にした平成七年七月二三日付けで、他の会員一〇数名とともに、控訴人に対し、書面で、リニューアルや新システム移行について非難するとともに、リニューアルによる慰謝料として各サロンマネージャーに対し一〇〇万円宛、ケイネット各会員に対し一〇万円宛の支払等を要求したのであるが、その要求は、前記二に認定したその当時までの事実経過に照らし、客観的に見て、控訴人の立場においてとうてい容認しがたい要求であるといわざるを得ないものであり、そして、控訴人側担当者との度重なる協議を経て話合いが膠着状態になった同年一二月九日、被控訴人は電子メールで松本に対し前記二2(八)の覚書において先送りされた損害賠償等の問題の年内決着を求める要求をしたのであるが、その中での、事務局職員を名指しでした「あんなバカな連中」との表現や「けっして私はあなた方を許すことはないであろう」「あなた方になんらかの鉄槌を下さぬ限りケイネットからいなくなる事はけっしてないであろう」などの表現は、単なる要求の限度を超える不適当、不穏当なものであるというべきである。

しかし、控訴人は、被控訴人の右行為が第二、第三規約各一五条二項一〇号の「ケイネットの運営を妨げるような行為」及び同一二号の「法令に違反するものまたは違反するおそれのある行為」に該当する旨主張するのであるが、同条二項は、「ケイネット(又はコペルニクス)を利用するにあたり」行う行為を対象としているところ、その意義は、本件ネット利用上の行為又はその利用に随伴する行為をいうものであり、単にその利用に関連するに過ぎない行為をも含むものと解することはできないというべきであるところ、右損害賠償等の要求行為は、本件ネットの利用に伴い生じたトラブルに係る行為であるのに止まり、いまだ本件ネットを「利用するにあた」っての行為ということはできないといわなければならない。

したがって、右の行為自体をもって本件契約の解除事由とすることはできないというべきである。

(四) 前記二3(五)の写真掲載行為について

前示のとおり、被控訴人は、被控訴人らの控訴人に対する前記要求行為を受けての控訴人担当者との話合いの際に被控訴人が密かに撮影した控訴人担当者三名が着席している上半身の写真を、その目の部分を黒く塗りつぶして、被控訴人がインターネットに開設したホームページに掲載したのであるが、かかる行為が法律上どのように評価されるかは別として、被控訴人らとの話合いに当たっていた控訴人側担当者に対する信義にもとる行為であることは明らかというべきである。

しかしながら、この点についても、本件ネットを利用するに当たっての行為と評価することができないことは、右(三)の場合と同様というべきであるから、この行為自体をもって本件契約の解除事由とすることはできないといわざるを得ない。

(五) 前記二2(九)及び(一〇)のアンチケイネットマークを用いた書込行為について

(1) 前示のとおり、被控訴人は、前記二2(八)のとおり控訴人との間に和解合意が成立し、ID停止措置が解除された平成七年七月一九日から、直ちに、本件ネットの運営姿勢を批判する立場を標榜するアンチケイネットマークを自己のハンドルネームに付し、以来控訴人からID資格抹消の措置を受ける前日の平成八年六月一四日までの間、継続的に、合計四〇〇回以上にわたり、「みんなのフリートーク」を中心としてそのハンドルネームを用いての書込みをしたものである。

しかるところ、控訴人が営業として行う本件ネットの、会員の誰でも閲覧することができるネット上において、このように継続的に、かつ一貫して、その運営を批判する立場の表示がされることが、控訴人の本件ネットの運営上控訴人の立場から見て好ましくない影響を及ぼすものであることは明らかである。しかも、そのネームのもとに書き込まれた内容は、別紙一覧表に見るとおり、一貫して、本件ネットに関する控訴人の運営の在り方や控訴人の被控訴人に対する対応をことごとに非難し、ひいて控訴人の経営姿勢そのものへの非難にも及び、控訴人が「みんなのフリートーク」の管理人として選任したハンドルネーム「あすなろ」なる人物の対応の不当及びその無能を指摘、非難し、さらに控訴人の選任した弁護士の行動を非難するなどのものであって、このような書込みの継続は、右アンチケイネットマークの表示と相まって、被控訴人の考え方に共鳴しない多数の参加者のケイネットへの参加意欲に影響を及ぼし、ケイネットの運営に少なからざる支障を生ずるおそれのある行為であるというべきである。

もとより、本件ネットにおけるフリートーキングの場である「みんなのフリートーク」においては、会員の自由な意見の表明が予定され、その中で控訴人の行う本件ネットの運営を批判し、改善意見を表明することが許容されるのは当然である。しかしながら、別紙一覧表に見られる被控訴人の意見表明は、前記二3(二)ないし(七)のような控訴人と被控訴人らとの間の激しい抗争の経過の中でされたものであって、もはや控訴人の運営方針が被控訴人の考え方と相入れないものであることが明らかとなっており、被控訴人としても自己の意見が入れられる可能性のほとんどないことを承知の上で、控訴人や管理人及び事務局職員の行為に対し、揶揄的に、又は侮蔑的に非難する体のものであり、単なる運営批判や改善意見の提示ではなく、控訴人との対決姿勢を鮮明にするためにするものと評価せざるを得ないものであって、社会通念に照らし、本件契約上会員に許容された自由な意見表明の限度を超えるものといわなければならない。

また、控訴人としては、本件ネットの運営に当たって、会員の意見や批判に耳を傾け、改善すべきは改善する姿勢が求められるのであり、前認定の事実経過に照らし、リニューアルや新システム移行に当たり、その内容や会員の理解を求める方法等において不十分な点があったことを否定することができないけれども、運営方針の決定権限は控訴人にあるのであるから、個々の会員が自己の考え方に固執して、ネット上において非難のための非難を繰り返すことは、ケイネットの適正な運営を損なうものとの評価を受けざるを得ないものというべきである。

しかも、被控訴人は、前記二2(八)のとおり、被控訴人との間の合意において、ID停止措置に至る経緯において被控訴人にも書込みに表現上不適切な部分があったことを認め、今後誹謗・中傷と誤解されるような書込みをしないよう注意し、被告ネットの健全な発展に協力する旨を約したのにかかわらず、その直後から右のようなアンチケイネットマークの使用及び書込みを始め、継続したのであり、これは、右の合意の趣旨に反するものと評価せざるを得ない。

(2) さらに、別紙一覧表の書込みには、管理人「あすなろ」に対する非難が多数含まれている(同一覧表の番号5、7、9、14、16、17、18、19、20、22、24、30、48、52、53、54の各書込み)ところ、その記載はいずれも同人の対応を揶揄的に非難するものである上、そのうちの相当数のもの(同番号7、16、17、19、20、22、24、52、53等の書込み)における表現は、揶揄の程度を超え、同人を誹謗するものとの評価を受けるべきものである。

(3) なお、控訴人は、被控訴人の以上のような書込みに対し、前記二2(七)の場合に採った隠蔽措置等のような措置を採っていないけれども、右隠蔽措置後の前記二認定の事実経過に照らして見ると、控訴人としては、右隠蔽措置を発端として被控訴人との間に紛争が生じ、以後前記二3(二)ないし(六)のような抗争状態になっていたことから、事態の一層の紛糾を避ける観点から強硬措置に出ることを控えたものと推認することができるものというべく、控訴人がこれらの書込みを許容していたものと評価することはできないというべきである。

(4) 右に述べたところを総合して判断すれば、被控訴人がアンチケイネットマークのハンドルネームを使用して行った別紙一覧表記載の書込みは、これを前記二認定の事実経過、ことに二3(二)ないし(七)の経過の中で、全体として見れば、ケイネットの運営を妨げる行為(第二、第三規約各一五条二項一〇号)に該当し、また、その一部は、他の会員あるいは第三者を誹謗する行為(同項三号)に該当するものと評価すべきものといわなければならない。

(六) 前記二3(七)の千川弁護士に関する書込行為について

前示のとおり、被控訴人は、平成八年三月一九日及び同年四月六日、「みんなのフリートーク」に、控訴人の依頼した千川弁護士が被控訴人の依頼した弁護士との話合いを回避しているかのような印象を与える書込みをした。

右の行為は、弁護士の職責と地位とにかんがみると、その程度の表現をもっていまだ同弁護士の名誉を棄損し、又は同弁護士を誹謗中傷する行為に該当するものということはできないというべきであるが、同弁護士の行為を非難することによって、同弁護士に委任した控訴人の被控訴人に対する対応を非難する行為として、右(五)に判示した行為の一環としての本件ネットの運営を妨げる行為を構成するものと評価すべきである。

2  第一規約(九条)及び第二、第三規約(各一〇条)においては、会員に一定の事由があるときに当該会員の会員資格を停止し、又は取り消すことができる旨を定めているところ、その定めは、当該事由がある場合に会員契約を解除することができることを定めたものと解することができる。しかしながら、当該事由がある場合の措置として会員資格の一時的停止と取消し(契約の解除)とを選択的に定めていること及び本件契約が控訴人が一方的に定める会員規約を会員となろうとする者が承諾することにより締結されるものであること、本件パソコン通信事業の性格上本件ネットへの希望者の自由な参加が認められるべきものというべきこと、会員に対する本件契約の解除は当該会員がネット上で築いてきたコミュニケーションを完全に失わせるものであることなどの本件契約の性質にかんがみると、会員契約の解除の効力につき判断するに当たっては、会員に形式的に当該事由に該当する行為があればそれだけで当然に控訴人に契約を解除することが許されるものということはできず、会員の当該事由に該当する行為のため、控訴人において当該会員との会員契約を継続することが困難であると判断することにつき合理性を肯認することができる場合にのみ、その解除が許容されるものというべきである。

そこでこの観点から、前記1(一)、(二)、(五)及び(六)の被控訴人の本件契約上の義務違反行為について考えるのに、これらの行為の一つ一つ(右(五)の書込みについてはその書込みの個々)を見れば、それのみをもって右解除の事由とするに足りる重大な違反行為とするのは当たらないけれども、右(五)においても述べたように、本件の事実経過の中でこれらの行為を全体として見れば、被控訴人の行為、特に右(五)に指摘した行為は、控訴人の本件ネットの運営を現実に妨げるおそれのあるものであり、加えて、前記1(三)及び(四)に指摘した被控訴人の不適当、不穏当な行為と併せ考えると、控訴人との信頼関係を著しく損なうものというに足りるものであって、控訴人において被控訴人との契約を継続することが困難であると判断することにつき合理性を肯認することができる場合に該当するものというべきである。

よって、控訴人がした本件契約の解除は、その余の控訴人主張の解除事由につき判断するまでもなく、本件契約に基づき有効にされたものということができる。

3  被控訴人は、本件契約の解除が権利の濫用に当たると主張する。

しかしながら、以上に判示したところに照らせば、リニューアルや新システム移行につき控訴人に不適切な点があること、前記1(一)及び(二)判示の違反行為がID停止措置前の行為であること、控訴人が神奈川県の出資を受けたいわゆる第三セクター方式の株式会社であることなど被控訴人指摘の事情を考慮に入れても、控訴人が前示の事由に基づいてした本件契約の解除が権利の濫用に当たるものということはできない。

4  以上のとおりであるから、被控訴人と控訴人との本件契約は、平成八年六月一五日限り解除により終了したものというべく、したがって、被控訴人がコペルニクスの会員である地位を有することの確認を求める被控訴人の請求は理由がない。

四  控訴人の不法行為の成否

当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償の請求は理由がないものと判断する。

その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決九七頁二行目から同一〇二頁末行までの記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

原判決一〇〇頁一行目の「、このような」から三行目の「あるから」までを削り、九行目の「しかして」から原判決一〇二頁九行目までを改行して次のように改める。

「 次に、②の隠蔽措置については、前記二2(七)のとおり、被控訴人はローカル・ルールに違反する書込みを継続的にしたものであるから、被控訴人においてこれら一連の書込みに対し隠蔽措置を講じたことをもって違法であるということはできない(隠蔽措置の対象とした個々の書込みの一部に隠蔽の対象とするまでもないものが含まれていたとしても、右ルールに違反する継続的な書込みに対応する措置であることに照らして考えれば、そのことをもって不法行為を構成する違法があるものと評価することはできないというべきである。)。また、④のID抹消措置については、前示のとおり本件契約は有効に解除されたものというべきところ、同措置はその解除に基づくものであるから、これをもって違法とする余地はない。」

第五結論

以上の次第であるから、被控訴人の本件請求は、被控訴人が控訴人の運営するコペルニクスの会員である地位を有することの確認を求める請求及び控訴人に対し損害賠償を求める請求ともに理由がなく、いずれも棄却すべきものである。

よって、原判決中右前者の請求を認容した部分(控訴人敗訴部分)は失当であるから、本件控訴に基づきこれを取り消した上、同請求を棄却することとし、右後者の請求を棄却した部分は正当であって、本件附帯控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 濱崎恭生 裁判官 田中信義 松並重雄)

〈以下省略〉

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